置賜郷愁
〜 そして再び の季節〜






季節は巡り、歴史は繰り返される。
新しい命。
ブナの1年生が2年生に隣人の挨拶をしていた。



















新緑の谷あいをゆっくりとレトロ列車が走ってゆく。
オレンジの機関車と茶色い客車がゆっくりと鉄橋を渡る。
窓を開け放って吸い込む緑の風はいかがだろうか。



















5月の田んぼに風が止まる。
イザベラバードが称えた、穏やかで健やかな盆地の営み。
ライフスタイルや走り去る列車の姿が変われど、景観の美しさは変わらない。



















山の緑はまだ淡く、里の緑は鮮やかに。
空高く、ヒバリがさえずっていたかと思うと、草はらに向かって急降下。
若草色の気動車が横一文字に風を切っていった。



















雨に濡れていっそう鮮やかな峠の登り口。
幾多の人々がこの峠を越えて、幾多の人々が安全を祈願したことか。
峠が機能していた頃は、もっともっとこの鮮やかさが愛でられていただろうか。



















朝、大きな柿の木のある旧道沿いの家から煙が立ち上る。
雲間からの低い光が里へと急ぐ列車の顔に当たる。
今日も変わらぬ一日が始まる。



















そぼ降る雨に渓谷の霧は上がらず、川面の風も冷たい。
1両だけの列車が鉄橋を渡ってトンネルに吸い込まれると、
また流れの音が大きくなった。



















錦彩る山間の道。
冬の予感を漂わせながらそれぞれに今年最後の輝きを放つ。
新型気動車も黄葉の山に似合ってきたかもしれない。



















旧街道は走る車もなく、落ち葉の絨毯が敷き詰められていた。
カツラの甘く香ばしい匂いの中に包まれていると、
峠を越えた列車が軽やかに鉄橋をふたつ渡っていった。



















音が近づく。レールが光る。
そしてカーブを曲がって姿を現した8秒後、
微かな排気の匂いの中で濡れたススキが揺れていた。



















今年の雪は多かった。
何度も列車が止められ、何度も遅れた冬だった。
でも、盆地の朝の雪原はやはり今年も美しかった。



















通い慣れ、見慣れた風景。
また会えたあの笑顔、優しい眼差し、まったりした言葉。
お気に入りの温泉に浸っているかのような温かい時が流れる。



















雪を切って鉄路を確保する除雪車はファンも多い。
あれだけ集まったファンのお立ち台に、一人分の足跡が残っていた。
そんなこととは無関係に、列車は定刻で山を下ってきた。


















遠くに駅の灯りが小さく見える。
その向こうは2,000m級の連峰。
そしてその向こう遙か、日本海に陽が沈んだ。



















飯豊の山の端に日が沈み、雪原は蒼を深める。
コバルトアワー。
列車の明かりだけ色合いを変えた筋が近づいてきて、またすぐに蒼一色になった。



















薄暮の里。
家々に明かりが灯り、温もりが見え隠れする。
列車の音は、それぞれの時を知らせる生活の音にもなっている。



















煌々と満月の夜。
静寂の時間がやってきた。
星がふたつみっつ、やがて天空では冬の神話が宴を始める。




May.2010-Feb.2011
Nikon D300
AF-S Nikkor 28-70mm F2.8D
Nikkor ED 80-200mm F2.8D 
Nikon Transfer
Nikon Capture NX2




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