ちょこっとサイエンス
ササの実に発生した麦角(バッカク)
2003〜2004 長野県・上高地
Photo:T.Matsuo
麦角とは 魔女狩り伝説 また、麦角アルカロイドは子宮や血管などの平滑筋に直接作用しこれを収縮させます。古くからヨーロッパで陣痛促進や分娩後の子宮出血抑制に用いられていたのはこの作用を利用したものです。
参考文献・ホームページ等
ということで、古くからライ麦、小麦等に発生する事例は特にヨーロッパに多く見られますが、我が国でも1991年に北海道長沼町の1農家から出荷された秋播小麦品種「チホクコムギ」に発生したことが記録されています。 |
長野県上高地におけるササ果実の病変
(麦角・Ergota) 松尾敬由(前 東京高等学校 教諭)
後藤千春(東京高等学校山岳部OB会)
1.はじめに
ササの日常・非日常的な現象として、@開花・結実・枯死、Aササウオフシ(虫えい)、B仮称ササウオモドキ(ヒメササウオフシ虫えい)、Cテングス病(菌えい)、D開花・結実した果実の病変(麦角菌)、などが指摘できる。
特に、@およびAについては和・漢籍の文献にさまざまな形で紹介され、近年マスコミ等で報道されたり、とみに増加している登山者やハイカーの記録の中にも記述されている。 Bについては先人の観察の目は届いていないようである。Cについては既にタケ・ササ研究の諸兄や造園関係者の間で様々な研究がなされ、広くその存在が知られているが、しかしそれも他の樹木やタケ類の報告が大多数で、ササに限定すると甚だ些少である。
Dについて全国的に一部個体開花・部分開花・全面開花などの報告があるものの、麦角発生現象が極めて稀なため詳細な報告を聞く機会がない。
@、A、Cについては多くの研究事例があるのでそちらに稿を譲ることにして、Dの現象について筆者らは平成15年、平成16年と2度にわたりその病変現象を目にする機会を得たので報告する。
2. 概要
○発見日時:
(1)平成15年9月13日 午前10時 天候:晴 (2)平成16年9月25日 午前11時 天候:晴
○発見場所:
長野県南安曇郡安曇村上高地 梓川右岸 村営アルペンホテルと清水屋ホテルの中間点の遊歩道際。 (1)上高地公園活動ステーション進入路付近
(2)上記より20〜30m下流
○種 類:クマイザサ(シナノザサ)
○発生規模:
(1)上記活動ステーション進入路から遊歩道に沿って下流に向かって右側(山側)に、幅2m、長さ7mの小面積で開花・結実個体があり、そのうち4稈9個体、左側(川側)に1稈1個体。(写真1) (2)上記地点より20〜30m下流に向かった遊歩道の右側(山側)、道に沿って幅2m、長さ4mの小面積で開花・結実。
(1)より小面積であるが麦角罹患の稈数および個体数は増加しており、25稈、1稈平均10個体の麦角個数があり、全体の麦角個数としては250個体を超える数が見られた。(写真2)
3.所感
上高地観光の拠点「河童橋」〜バスターミナル周辺は、毎年のように一部個体開花・ 結実があるようで、平成15年の第1回目の時にも数稈結実しており、さらに「河童橋」を渡った梓川右岸「西糸屋」周辺にも幅5m、長さ20mの規模で遊歩道に沿って結実が見られたが、時期遅れのためほとんどの果実は落下していた。
また、平成14年9月13日、上高地から中尾峠を越える時、焼岳の展望台噴気孔周辺に少し注意すると一部個体の結実が各所で発見できるほどであったものの、麦角の発見には至っていない。
平成16年の第2回目では、「河童橋」〜バスターミナル周辺にも一部個体開花・結実が見られたが、ビジターセンター係員は、上高地ではそのような現象は見られず、田代池の木道脇に部分開花・結実があったようだ、と報告している。
当地のものは昨年に引き続き発見されたが、開花・結実地点が異なり、二度咲きの現象ではない。
虫媒により感染したものだが、それにしてもササが毎年のように開花・結実することは珍しいのではないかと思われる。
4.おわりに
平成14年の現況は不明であるが、15年につづき16年にも開花・結実に加え麦角の発生を見るにいたったこともあり、17年には同地点にどのような変化が見られるのか継続して観察し、さらに詳細なデータの収集に努めることとしたい。
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2008 福島県・沼山峠〜尾瀬沼 2008年9月6日、尾瀬の福島県側コースである沼山峠から尾瀬沼にかけて、 オオバザサの部分開花がおよそ30カ所にみられ、そのうち6カ所で麦角の発生を確認した。 1カ所あたりの開花個体は5〜40桿ほどであり、麦角の発生はそのうち1〜5桿であった。 ただ、健康な結実はひとつも見られなかった。 健康な個体の開花 麦角@ 周辺の状況@ 麦角A 周辺の状況A 麦角B 周辺の状況B 麦角C 周辺の状況C 麦角に感染した芽芯 |